声の主(アイラ)

その日、私はいつも通り着替えを済ませ、仕上げに至福の一本をこれでもかと愛でておりました。


すると、聞こえてくるのです。


「アイラさん、ダンスの練習はしているんですか？」


その瞬間、私の背筋は、氷瀑のごとく凍りつきました。


確かに、金曜日の英会話教室イベントのあとにミニショーをするとほざいたのは、ほかでもないこの私。


「ちょっとだけ練習しています」


震える唇をなんとか動かし、声を出すことに成功。


「まさかずっと足グルグルをするわけではないですよね？」


やられた。核心を突かれた。
しかし、そこで折れる私ではない。


「実は、ヒラヒラする扇子もあります」


そう、私だって、まさか無計画に "ひとりでイベントやります" などと宣言するはずがないのです。


「成程。本番、楽しみにしていますよ。」


そう告げて、"何か"は去っていきました。


――あの声の主が誰だったのか。
今となっては、どうにも思い出せません。


ほっと安堵したのも束の間、
「練習しなきゃな……」という現実が、除夜の鐘のごとくﾄﾞﾝﾄﾞﾝﾄﾞﾝﾄﾞﾝ押し寄せてまいります。


果たしてイベントは成功するのか。
そして、通販で注文した靴は無事届くのか。


この顛末、ぜひ貴方の目で見届けてくださいませ。

アイラ