2025年5月5日月曜日

母と(蓮)

昔よく連れて行かれた海で、イルカが死んでいた。
膨れたお腹は、硝子の浮玉みたいに
青と黒と灰色の海辺をキラキラ照らした。
長いようで短い旅だったのか、知る由もない。


母が子供の頃、よくアサリが採れたその砂浜では、近年はマテ貝の潮干狩りが主流らしい。
しかし、このマテ、てんで採れない。
プロっぽい地元のおっさんも、「穴すらない」と頭を抱えた。
干潮は9:30。ただいまの時刻、8:47。
どんどん集まる人、家族連れ。
待てど暮らせど、収穫なし。


帰るたびに、親戚一同集まる店。
とは違う店舗で
女2人、対面で座る。
骨についた肉を噛み締める。
奥歯が軋む音がする。沁みる旨み。


岩の谷間に、カメノテ発見。
塩茹でにすると美味しい。
腕を入れて、素手で掴む。
千切れないように、上から下からゆっくりとこそぐ。


初めて奥の奥まで行ってみる神社。
千と三百ちょっとの階段をえっちらほっちら
涼しい顔して降ってくる人たちを妬みながら登る。
期待とは裏腹に帰り道の方が惨め極まりなく
膝が笑い転げて、冷や汗が止まらない。
奥社でしか買えない御守りは超強力と、後から知った。


少しやんちゃな森くんと仲が良かった母は
左手に海が見えるこの坂を、駅に向かって下ったという。
キスどころか手も繋いだことはないらしい。


いつも必要以上に冷房の効いたスーパーは
今年も変わらず異常に寒かった。
入り口に乱雑に置かれた激安栄養ドリンクを2本手に取り、「これ飲んだら元気になるんよ」と笑う。


私の中で、最も美しく、最も強かった、そして怖しかった母が、可愛らしい少女に見えた。

長いようで短い旅は、これからもひとしきり続く。




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